インタビュー【ソディックユーザレポート】 新潟県 十日町市
株式会社新潟プレシジョン様

先手先手で高精度加工機を導入し
“匠の技”との組合せで新たな顧客を掘り起こす
~ソディック製マシニングセンタ(MC)で日本刀レプリカを製作~

新潟プレシジョンは、精密部品加工と製造現場で使われる自動機の製作を主に手がける。部品加工ではμm単位の微細加工に強みをもち、セラミックスや超硬合金など幅広い材種に対応。自動機製作では顧客の細かな要望に応じた機械設計から部品加工、組立て、検査までを一貫で行う体制を整えている。近年は精巧な日本刀のレプリカを製作するなどBtoC向けをはじめとする新分野の開拓にも余念がない。

こうした同社の挑戦を下支えするのが“攻め”の設備投資だ。高精度な機械を導入することにこだわり、マシニングセンタ(MC)や各種放電加工機など充実した設備を保有。さらに、自社の主要業務にとってはオーバースペックとも言えるソディック製のリニアモータ駆動MCをあえて導入したことが、日本刀のレプリカやそこから派生した医療用メスの開発案件につながった。今後は機械を扱うスタッフの教育にも力を入れ、他社に真似のできない難加工を手がけることで差別化を図る方針だ。

十日町市にある本社工場とメカトロニクスセンター。魚沼市には魚沼工場とテクニカルセンターを構える。 十日町市にある本社工場とメカトロニクスセンター。魚沼市には魚沼工場とテクニカルセンターを構える。

同社は1996年創業。社名には「新潟県で一番の精密(precision)金属加工メーカーになる」という創業者の想いが込められている。当初は自動機向けの部品加工を主に行っていたが、2007年に自動機部を設立して自動機の設計・製作にも参入した。現在、新潟県十日町市に本社工場とメカトロニクスセンターを、同魚沼市に魚沼工場とテクニカルセンターを構えており、2工場+2センターで部品加工と自動機の設計・製作、そしてBtoC向け製品の開発・製作を行っている。社員数は43人。

部品加工に加え自動機製作が堅調

創業から続く部品加工は手のひらサイズの少量生産品を得意とし、メインの自動機部品だけでなくプラスチック金型部品や光学機器部品なども手がける。自動機部品の素材であるステンレスに加え、セラミックスや超硬の加工ノウハウをもつのも特徴。なお、セラミックスは切削や研削加工の際に細かな粒子が発生して加工機に悪影響を与えることがあるため、同社では自動機部品加工を魚沼工場で、セラミックスや超硬の加工を本社工場で行うといった厳密なすみ分けをしている。
また、2016年に魚沼工場の隣に開設したテクニカルセンターでは、顧客からの「こんな加工ができないか」という要望に応えて部品の試作ができる体制も整えている。

自動機の設計・製作はこの数年で受注が軌道にのり始めた成長分野だ。2018年に自動機専門の拠点であるメカトロニクスセンターを開設。ここで設計された自動機部品が魚沼工場で加工され、同センターに戻って組立て・検査を経て国内外に出荷される。星輝彦社長は、「設計を手がける会社、組立てを手がける会社は多数ありますが、設計から部品加工、組立てまですべて行う会社は非常に少ない。当社の特徴と言えます」と話す。現在の主力は車載コネクター製造用の数mサイズの自動機で、部品を搬送しながら端子の挿入や品質検査、梱包までを行う。自動機は基本的に一品もののため、受注のたびに顧客の要求仕様に応じて設計部隊が新たにつくり込むのだという。

「主力の部品加工や自動機の一貫生産に加え、新分野への挑戦も進めています」と星輝彦社長は話す 「主力の部品加工や自動機の一貫生産に加え、新分野への挑戦も進めています」と星輝彦社長は話す

積極的な設備投資で差別化

難削材の加工や自動機の一貫生産などの強みをもつ同社だが、中でも他社との差別化に一役買っているのが高精度加工機への積極的な投資である。例えば、プラスチック金型部品の加工に用いる放電加工機はソディック製のリニアモータ駆動の高速・高性能ワイヤ放電加工機「ALN600G」や超精密形彫り放電加工機「AP3L」、NC微細穴加工機「K1BL」などを保有し、コネクター向けの金型のような微細加工にも対応する。新潟県内の金型メーカーは大物ワークを扱うところが多く、微細加工にここまで特化しているケースは珍しい。水仕様に比べて高精度な加工が可能な油仕様のワイヤ放電加工機も保有。同機械で10年前に作製したサンプルは、2つの部品を別々に加工して組み合わせており、各部品のクリアランスは片側2μm。ただの立方体に見える部品から渦巻状の部品が滑らかに滑り出す。同社の技術力がわかる好例と言える。

一方で、通常の業務を行ううえでオーバースペック気味の加工機を導入することもあった。これは星社長の父で2018年まで社長を務めた星光男氏の方針によるもので、ソディックが初めて販売したリニアモータ駆動MCの量産機「MC430L」を導入したときも、「リニアモータ駆動のMCがほしい」という鶴の一声で入れてしまったのだという。当時、製造部門を統括する立場だった星社長は、「正直に言って、生産に使えないほど良い機械を入れてどうするのかと疑問に思っていました」と振り返る。2軸や2.5軸加工がメインの同社では使う機会のほとんどない5軸制御MCを導入したこともあった。

ワイヤ放電加工機「ALN600G」やNC微細穴加工機「K1BL」が立ち並ぶ ワイヤ放電加工機「ALN600G」やNC微細穴加工機「K1BL」が立ち並ぶ
ソディック製放電加工機で加工したサンプルや金型部品 ソディック製放電加工機で加工したサンプルや金型部品

JIMTOFに出したレプリカに即注文が

一見ムダに見えるこうした設備が徐々に活かされ始めたのが、星社長が就任した2018年だ。数年前から同社は「未来への挑戦」を方針として掲げ、精密部品加工で培った技術を活かしたサンプルをつくり展示会に出し始めていた。来場者に足を止めてもらおうと、手のひらサイズの神輿や金閣寺、ミラーボールなど“遊び心”を加えた各種サンプルを製作。後にBtoC製品として花開くことになる日本刀もあった。ただ、長さは50mmほどでそれほど精巧なものではなかった。

「日本刀のレプリカを真剣につくるようになるきっかけを与えてくれたのはソディックさんです」(星社長)。
2018年11月に開催された「第29回 日本国際工作機械見本市(JIMTOF)」。当時、ソディックはJIMTOFの自社ブースにユーザーの加工サンプルを置いてもらおうと数社に声をかけており、そのうちの1社が新潟プレシジョンだった。
「本来であれば、主力製品である自動機部品を出展するのが筋です。ただ、JIMTOFは非常に大きな展示会ですし、ソディックさんが声をかけたほかの会社さんの名前を聞いても、遊び半分でつくったものは出せないと感じました。悩んだ末に日本刀のサンプルをソディックさんに見せると、『いいじゃないですか。これでいきましょう』と背中を押してもらえた。展示会まで1カ月、やるしかないと思いました」(同)。

日本刀サンプルづくりを担当していた江口篤取締役未来プロジェクト部長と星社長の2人が中心となって試行錯誤が始まった。残存する日本刀は数百年前のもの。当然、機械加工に必要な設計図や3次元モデルはない。そこで、刃渡りや刃の幅、反りなどがわかる資料と写真を基にCAD/CAMで3次元モデルを作成し、それを縮小。ソディック製リニアモータ駆動MC「UH430L」を使い、55HRC以上の焼入れ鋼の1枚板から削り出すことに成功した。実物にできる限り近づけるための加工パスの出し方やワークを把持する方法については、“匠の技”と言える独自の工夫が詰め込まれている。

これをJIMTOFに出展したところ、海外の来場者からすぐに購入の希望があった。そこからは急ピッチで生産体制を構築。刃物の所持について定めた銃刀法に違反しないサイズを検討して原寸の1/6~1/7と決めた。元となる日本刀の長さはさまざまなため、レプリカであっても実物の大小を反映していることになる。現在、織田信長の愛刀で国宝の「へし切長谷部」や豊臣秀吉のコレクション中でも名刀とされる「一期一振」など6種をラインナップ。最新作は平安時代に国永によってつくられた名刀「鶴丸国永」で、刀身だけでなく鍔(つば)や柄、鞘などの刀装具も実物どおりに再現している。

「UH430L」を使って製作された日本刀のレプリカ 「UH430L」を使って製作された日本刀のレプリカ

日本刀から医療用メスへ展開

レプリカの加工ではUH430Lの機能が存分に発揮された。加工を担当した江口取締役は、「一般的なボールねじ駆動MCは、長期間使うとグリス切れによる摩擦で誤差が生じることがありますが、磁石の吸引・反発の力を利用して推力を生み出すリニアモータ駆動方式は非接触のためこうしたトラブルが発生せず信頼感があります。また、刀文をつけたり、面質にこだわったりする場面では本機のスペックが役立ちました」とソディック製MCの良さを語る。

日本刀のレプリカ製作はBtoC向けという新分野を切り開いただけでなく、医療用メスの開発案件にもつながった。医療機器商社から「日本刀がつくれるならメスもつくれるのでは?」と依頼があったのだ。2020年10月には医療器具製造業認証を取得し、耳科手術用のメスの製造を開始。ほかにも柄の部分にデザイン性の高い模様を彫り込んだオリジナルメスも提案しており、医療器具製造を部品加工や自動機製作に次ぐ柱として育てていきたい考えだ。

「UH430L」をはじめソディック製リニアモータ駆動MCを揃える 「UH430L」をはじめソディック製リニアモータ駆動MCを揃える

新機種を次々打ち出す姿勢を評価

同社はMCについては他社製も保有するが、放電加工機は創業時からソディック製のみを使ってきた。長年のユーザーだけあってソディックへの信頼は厚い。「会社としてのお付き合いが長いのはもちろん、精度が良く、サポートも早い。放電加工機については今から他社製を使うことは考えていません」と星社長。新潟県三条市にソディックの出張所があり、サポートが必要な場合は迅速に対応してもらえる点も安心につながっているという。ほかにも、次々に新機種を打ち出す姿勢を評価する。「買ったばかりなのにすぐに新機種が出るのは、ユーザーの立場からするとちょっと複雑な気持ちになります(笑)。でも、数年後に新しい機械を入れるときに性能がアップしているのは頼もしい」(星社長)。

一方、放電加工に関しては課題もある。形彫り放電加工で発生する作業者ごとのばらつきだ。形彫り放電加工では通常、電極をプローブに押し当てて芯出しを行うが、同社が手がける微細な金型部品の加工では電極も非常に細いためこれが難しく、作業者が勘を頼りに電極をセットしなければならない。星社長は、「ソディックさんのMCでは、センサ技術を使った段取りのサポート機能が用意されています。これを形彫り放電加工機にも応用してもらえれば」と期待を寄せる。

現場に高精度な加工機が多いことによる問題も出てきた。一つは暖機運転のための時間が伸びていること、もう一つは外気温の影響である。機械の精度が良くなるほど加工を開始するまでの暖機運転時間が長くなりムダな待ち時間が増える。
また、外気温の影響を抑えるために工場内の温度も厳格に管理する必要がある。「高精度であるからこそ暖機運転に時間がかかるのはわかりますが、時間をかけて良いものができるのは当たり前。いかに短時間で済ますかを工夫してもらえれば」(星社長)。工場の温度は現状、23℃で管理しているが、機械の側で影響を吸収できればもう少し設定温度に幅をもたせることができる。電気代を節約して環境への負荷を抑えるためにも、メーカー側の工夫を期待しているという。

高精度加工機と匠の技を融合

「未来への挑戦」を続ける同社が今後目指すのはより付加価値の高い部品の提供である。「数年前までは、中国メーカーとの価格面での競争を余儀なくされていましたが、最近は中国国内の加工賃が上昇傾向にあり、日本との差は縮まりつつあります。そうした中で、再び高品質へのニーズが強まってくると見ています」(星社長)。

そうなったときに重要になるのはやはり設備投資。例えば現状、微細な金型部品の加工には放電加工機を使っているが、今後は「MCで直彫りしてほしい」とのニーズが増える可能性がある。求められたときに機械がなくてはチャンスを活かせない。「オーバースペックの機械を入れていた先代の考えが、少しずつわかってきました」と星社長は話す。

高精度加工機が増えるにつれて課題になるのがそれを扱うスタッフの育成だ。同社では特に若手とベテランが気軽に話し合える現場づくりを重視する。最近の若手は教えられたことを素直に受け入れる傾向が強く、「こうした方がもっと効率良く作業できるのでは?」という疑問が生まれにくい。そこで、若手スタッフを集めて現場の問題を話し合う場を毎月実施。
議題の設定や議事進行を若手に任せることで、疑問をもつ力やコミュニケーション能力の向上を図っている。

中国を中心とする海外メーカーとの競争に打ち勝ち、メイドインジャパンのモノづくりを続けるには高精度加工機に加えてスタッフ一人ひとりのレベルアップが重要になる。「若手の教育を続けてきたことで、少しずつですが会社が良くなっていると感じます。結局、機械を使うのは人ですから」(星社長)。

高精度加工に不可欠な高い技能を持つ若手社員の育成にも力を入れる 高精度加工に不可欠な高い技能を持つ若手社員の育成にも力を入れる
星 輝彦 代表取締役 社長 星 輝彦 代表取締役 社長

株式会社新潟プレシジョン
住所
〒949-8617
新潟県十日町市中条己1684-1
TEL:025-752-6306
代表者
星 輝彦 代表取締役 社長
設立
1996年
従業員数
43人
URL
http://www.np1.co.jp/

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