インタビュー【ソディックユーザレポート】 石川県 白山市
冨士工業株式会社様

V-LINE® 竪型射出成形機
不良ゼロの生産体制を実現

車載用電子部品生産で快走
お家芸となったインサート成形技術

冨士工業(株)(石川県白山市)の電子部品の受注・生産が好調だ。単体のプレス部品や一般樹脂成形品もつくるが、持ち味は社内製造の精密プレス品と熱可塑性樹脂を結合させてつくるインサート成形品。中でも顧客からQCD(品質・コスト・納期)で好評を博しているのが高機能スイッチ、センサ、コネクタ端子などの車載用電子部品だ。

同社のインサート成形技術は、いまや「お家芸」とも言えるまでに成長したが、それを支える射出成形機の存在も見逃せない。特に2000年代に入り「V-LINE®」方式のソディック製射出成形機の導入を進めてから加工技術が飛躍的に発展し、業績向上に寄与している。複雑形状や難加工材のニーズが増す今、技術の研鑽に努めてそれらに対応し、顧客に対して安心・安全を提供し続ける考えだ。

TR75VRE TR40EHV
V-LINE® 竪型 ロータリ式射出成形機
TR75VRETR40VRE
V-LINE® 竪型 単動式射出成形機
TR40EHV

プレス、樹脂成形、組立の社内一貫生産体制を確立

冨士工業は1939年に東京の新三河島で精密金属プレス加工メーカーとして創業。戦後の51年に石川県に移転し、大手電子部品メーカー向けの部品生産を始めた。ラジオ、テレビ、AV 、磁気テープなど弱電関係を中心に時代のニーズに応え、カメラ部品や携帯電話機のヒンジなども手がけた。

転機が訪れたのは1990年。主要取引先の事業が弱電から自動車へとシフトされる中、「お客様から『加工要素を増やしませんか』とお声がけがあったのです」と越村清史社長は述懐する。それまで、同社はプレス機による絞り加工を得意としたが、プレスの加工要素に加えて、樹脂成形や組立の加工要素も持つように勧められたのだ。
部品加工と言っても、弱電と自動車では条件が大きく異なる。自動車は弱電ほど厳しい公差は要求されないが、人命に関わる部品のため、不良は絶対に許されないし、途中で生産を止めることもできない。まして樹脂成形は経験がなく不安は募った。

だが熟考の末、「得意先に寄り添っていく」ことを決意。プレス、樹脂成形、組立という社内一貫生産体制を構築したのである。「売上高が100億円以上の会社ならともかく、当社のように20億円程度の規模の会社で、3つの加工要素を持つのはきわめて珍しい存在だと思います」(越村社長)。

近年、インサート用堅型射出成形機はソディック製の占める割合が増えている


工場長兼金属製造部部長
酒井 謙至氏

しかし、当初こそ苦労したものの、それがインサート成形技術など今日の強みにつながった。
「樹脂成形の専門メーカーでも外部から端子を購入することはできますが、変化点を見ることはできません。その点、当社はプレスも樹脂成形も社内で行うので、何か起こっても変化点が見え、対応しやすいのです」と工場長兼金属製造部部長の酒井謙至氏は話す。

V-LINE®方式のメリットを実感


成形製造部部長
橋本 伸氏

同社の成形技術が大幅に向上したのは2000年代に入ってからである。具体的には、自動車のストップランプスイッチケースの注文が入り、2002年に初めてソディックの射出成形機(横型)を導入したのがきっかけである。車載部品は全数保証が前提であり不良は絶対に出せないが、既設の射出成形機でトライすると部品形状が安定しなかった。そんな中、「ソディックさんの工場で試作トライをさせていただくと、形状や重量にバラツキが出ず、安定したモノづくりができたのです」
(成形製造部部長の橋本伸氏)。

その一番の要因は、ソディック製射出成形機の持つV-LINE®方式の構造にあった。従来の射出成形機は、スクリューと射出シリンダ(計量と充填)が同軸上に配置されているインラインスクリュー(インライン)方式のため、どうしても樹脂の逆流があり、充填量にバラツキが出る。これに対し、V-LINE®方式は計量と充填の工程を分離した構造のため、樹脂の逆流がなく充填量が安定する。このV-LINE®方式の威力を肌で感じたことで、以後、ソディック製射出成形機の導入が進むようになった。

現在、同社の成形製造部には34台の射出成形機が配備されている。その内の20台がインサート成形用の竪型射出成形機である。竪型射出成形機のうち、単品の金属部品を入れてインサート成形をするのがロータリ射出成形機であり、フープ状につながった金属部品をインサート成形するのが単動射出成形機である。そして近年、これらのインサート用竪型射出成形機ではソディック製の占める割合が圧倒的に増えた。

多くの成形改善を実現

同社の技術とソディック製射出成形機とのマッチングの良さを端的に表しているのがインサート成形である。いまやさまざまな部品加工に用いられているが、何と言っても最も多いのは、売上高の8割を占める車載用部品の製造である。その中の代表的な事例を紹介する。

1つ目は、耐熱性と電気的特性を併せ持つ樹脂を材料にした車間距離センサ用のコネクタ部品の加工例である。立ち上げ当初、インライン方式射出成形機で試作トライを行ったが、樹脂ガスによる製品外観のヤケが改善できなかった。「一般的に充填速度が速いとヤケが出やすいため、速度を落としたところ、今度は樹脂が回り切れないなど、何度試みても上手くいきませんでした」(橋本氏)。
そこで、ソディックのロータリモデル「TR100VRE」で試作トライをしたところ、計量、充填ともに安定し、ヤケ問題が改善されて生産性向上につながったという。

2つ目は車載用重量センサ用コネクタ部品の加工例である。材料にはPBT(ポリブチレンテレフタレート)系樹脂を使用した。立ち上げ当初はやはりインライン方式射出成形機で試作トライを行ったが、流動解析をしても寸法上の反りが安定しない。製品1個の重さが安定しない問題だ。そこでソディック製「TR100VR」(ロータリモデル)で試作を実施すると、計量・充填ともに安定し反り問題が改善された。


車間距離センサ用のコネクタ部品(左)と、車載用重量センサ用コネクタ部品(右)の加工例

スクリューやシリンダが摩耗せず

インサート成形は車載以外の部品製造にも用いられている。その1つがポリエステル系樹脂を材料にしたガスセンサ用モジュール部品の加工例である。当初は1号金型を使い他社機で射出成形していたが、品質要求事項のウェルド(クラック)が改善されず、歩留まりも悪かった。問題はそれだけではなく、40%のガラス成分が含まれる材料のため、スクリューとシリンダがすぐに摩耗してしまう。

「そのため頻繁にスクリューとシリンダを交換していましたが、その出費だけでも何百万円というお金がかかったのです。お客様の要求数量も増え『さあ、どうするか』ということになりましたが、『ここはソディック製に置きかえるしかない』と判断し、金型更新時を機に単動モデル射出成形機『TR75EHV』を導入しました」(酒井氏)。
ソディック製射出成形機の導入後はウェルド品質が良化され、不良が撲滅された。しかもスクリューやシリンダを交換する頻度が激減したという。

「初めは、ソディックの射出成形機は軸が2本あるので『部品交換費も高くつくのでは』というイメージがありましたが、驚くことに10年以上使っても一度も交換せずにすんでいます」(橋本氏)。
インライン方式ではスクリューと射出シリンダを同軸で動かすため、全体に大きな圧力がかかる。これに対しV-LINE®は回すもの(可塑化)は回すだけ、押すもの(充填)は押すだけなのでそれぞれが長持ちするというわけだ。この加工品は、歩留まりの悪さから、かつては月に5万個生産するのも容易ではなかったが、現在は月間15万個以上を難なく生産できるようになっている。



ポリエステル系樹脂を材料にしたガスセンサ用モジュール部品の加工例

安心・安全を提供し続ける

インサート成形で重要なのは、樹脂が流れやすく固まりやすく、毎回のショットが安定していることだが、「ソディックさんの射出成形機は高温タイプの製品でも、この条件を満たすことができています」と同社では言う。他社機の場合は大容量のヒーターを取り付けなければならないが、ソディックの射出成形機は標準タイプの機械でも420°Cくらいまでは温度が上がるので、「スーパーエンプラのほとんどに対応できる」とも。

こうした一方、製品のクリーン度を高めるため、同社では将来、クリーンルームの中で成形することも視野に入れている。それらを踏まえて、メーカーには、射出成形機から排出される樹脂カスやコンタミを完全になくすことや、使い勝手をより向上させるためのコンパクト化を求めている。

EV車や自動運転車をはじめ、自動車の電子化が進み、同社が得意とする車載センサ類などの需要は高まるばかりだ。
しかし、その一方では、複雑形状の製品ニーズや軽量・高強度を求めた新しい材料が続々と登場するなど、決して安堵していられる状況ではないのも事実だ。「市場環境の変化や与えられた課題をしっかりと把握し、お客様の安心・安全に応えられるよう努力を続けていきたい」と越村社長は今後の展望を語った。

越村 清史 代表取締役社長

冨士工業株式会社
本社
〒924-8522 石川県白山市旭丘1丁目12番地
TEL:076-275-0211
FAX:076-275-0933
代表者
越村 清史 代表取締役社長
創業
1939年
資本金
4000万円
従業員数
110人
売上高
20億円
主要生産品
金属プレス製品:
車載用コネクタ/車載用部品/移動体部品/ガス機具部品

プラスチック成形製品:
二輪車用部品/車載用部品/民生用部品/カメラ用部品

URL
http://www.fujikohgyo.co.jp

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