インタビュー【ソディックユーザレポート】 兵庫県 神戸市
伊福精密株式会社様

航空・医療分野での新規開拓を加速
精密金属3Dプリンタでの先行技術を磨く
業界に先駆けて技術とノウハウを蓄積し、
企業価値を高めるとともに市場全体の底上げにも尽力

2017年8月に竣工した新本社工場

ワイヤ放電加工に早くから着目技術を磨き上げ
大きな武器に

神戸市に本社を置く伊福精密は2017年2月、金属3D造形事業に本格参入した。ソディック製の精密金属3Dプリンタ「OPM250L」を導入。3Dの造形技術と金属切削加工技術を組み合わせた金型レスのモノづくりを確立し、航空機や先端医療など新市場を開拓していく狙いだ。2022年度までに、自動車部品の小ロット生産体制や航空機関連部品の量産体制を構築することを目指す。

同社は1970年、伊福元彦社長の父、伊福保氏が旋盤加工業の「伊福工作所」として創業した。当時から、意欲的に新しい金属加工技術を取り込んできた。
伊福社長は、「神戸市は重厚長大産業で発展した都市で、多数の老舗企業がひしめき合い、独立したばかりの父はなかなか仕事が得られず苦労したようです。ダイカスト金型の押し出しピンを旋盤加工する独自技術を開発するなど、硬度が高く加工の難しい仕事にチャレンジすることで新規顧客を開拓してきました」と同社の歩みを語る。
まもなくワイヤ放電加工機の可能性に目を付け、兵庫県下でもいち早く導入。以降、この分野の技術力を蓄積し、現在も高精度のワイヤ放電加工は同社の大きな強みとなっている。

同社は現在、ワイヤ放電加工に加え、形彫り放電加工機、マシニングセンタ、切削加工機を駆使し、自動車や航空機、半導体関連の精密加工品を、試作品から量産品まで幅広く手掛ける。長年、自動車メーカーとの取引を通じて高い切削加工技術と測定技術を磨き上げてきたことから、超微小・超微細加工での精度の高さには定評がある。
「すべての金属加工において最高級の品質を提供できる体制を整えており、『金属加工の駆け込み寺』としての価値を日々磨いています」(伊福社長)

出典:伊福精密株式会社

海外生産の増強ではなく、
日本を拠点としたグローバル展開を目指す

同社が2036年までのあるべき企業像を定めた長期ロードマップでは、従来の精密加工と3D事業の主力化、そしてグローバル事業展開の3つを柱として掲げている。現在、中国・江蘇省に生産子会社、オランダ・アムステルダムに営業拠点を展開。中国生産子会社については約2億円を投じ、2020年度をめどに生産能力を現状の3倍程度に引き上げる予定だ。

ただし今後、国外生産拠点のさらなる拡大や大幅な設備増強は考えていない。「あくまで日本市場あっての当社であり、グローバル展開の拠点となるのも国内の本社工場」というのが伊福社長の考えだ。
中国に生産子会社を置いているのは、上海マーケットの攻略がグローバル展開の重要なカギになるからだ。上海に拠点を持つことで、国内では接触できないような欧州の有力バイヤーとの関係を開拓している。

積極的な設備増強に取り組むのは国内工場だ。2017年8月には、約6億円を投じた新本社工場が竣工した。これまで試作品が中心だった本社工場と、量産品中心の第二工場を集約。すでに2台の金属3Dプリンタを導入しているが、2020年までに4台の追加導入を検討している。

強みである技術力と品質の高さを維持しながら、国際的な価格競争にも渡り合うため、自動化・省力化にも注力している。2018年内には6台のマシニングセンタによる工程すべてを2台の大型ロボットで対応できる完全自動システムを導入する予定だ。さらに来年度はワイヤ放電加工のラインにも同様の大型ロボットを導入する計画も進行中。ワイヤ放電加工の自動化工場は業界でも極めて珍しい。

ソディック製のマシニングセンタが立ち並ぶ

工場の自動化・省力化に加えて、オフィス業務のペーパーレス化を進めている。全社員がタブレット端末を携帯。勤怠管理から部門間のタスク管理、社員間のビデオ通話、作業サポートなどの機能が集約されている。これは業務効率化による働き方改革の一環でもある。

同社は以前から工場の24時間稼動を強みとしてきたが、新工場の竣工に合わせて、3チーム編成による時差出勤体制を導入した。タブレット端末を使ったオンラインシステムにより、チーム間の情報共有が円滑になり、労働時間を大幅に減らすことができたという。管理部門のあるオフィスや現場には大型モニタがあり、工場の様子が一目で分かる。これは、不測の事態における対策であると同時にIoTを意識した工場設備となっている。

IoTを見越し、工場管理や工場内の様子をモニタする

ソディック製精密金属3Dプリンタを導入

同社が、金属3Dプリンタに着目したのは、2014年頃のことである。以前から伊福社長は最先端の金属造形技術を学ぶため、ドイツを中心に何度も海外視察に足を運んできた。その中で、3Dの金属造形技術に出会い、参入に向けて早速準備を進めた。金属3Dプリンタを活用すれば金型レスでモノづくりが可能になると期待できるが、伊福社長が着目したのはそれだけではなかった。

同社の資金効率は極めて良好で、金融機関からの財務面での評価は高い。背景には、売上げに占める原材料費の比率の低さがある。使用する素材の大半が顧客企業からの支給品だ。自動車部品は顧客の規格に合致した素材が提供され、試作品開発の場合も専用素材のタブレットが用意される。

半面課題も感じていた。東日本大震災や2018年の豪雨被害のような自然災害により、自動車部品の一部でも生産・供給がストップすると、自動車生産全体の稼動が止まる。同社も工場を稼動できず、大きな損失が発生する。
「もし当社が支給の材料なしで製品をつくることができれば、すくなくとも工場を動かせます。金属3Dプリンタの造形であれば支給品はありません。金型レスのモノづくりをアピールできる体制を整備していこうというのが、金属3Dプリンタ導入の狙いでした」

とはいえ、投資収益や回収期間が見えやすい他の設備と違い、未知の領域である金属3Dプリンタは当然ハードルが高い。そこで購入には2016年度のモノづくり補助金を活用した。
「じつはその2年前から、補助金活用によるプリンタ導入を計画していたのですが、申請がまったく通らなかったのです。おそらく当時は行政の方々も金属3Dプリンタの可能性に懐疑的だったのではないかと思います。ようやく風向きが変わってきたのでしょう」

今回導入したソディック製精密金属3Dプリンタ「OPM250L」は、マルエージング鋼を素材とした自動車部品や航空機部品の加工に主に使用している。金型加工を想定していたソディックと、それを完成品加工に活用したい当社の間では、当初は認識の差もあったが、その後1年以上もきめ細かいディスカッションを重ね、可能性が見えてきた。互いにデータを共有し、ソディックも未知の分野にトライアルしながら、新たな市場開拓に目下取り組んでいるところだ。

ソディック製精密金属3Dプリンタ「OPM250L」と伊福元彦代表取締役社長

金属3D造形の普及へ積極的に情報を発信

金属加工業界でも金属3Dプリンタへの認知度は高まっているが、本格的な普及までにはあと5年はかかるだろうと伊福社長は見通している。まだ「魔法のような技術」といったイメージが根強いが、今後はフライス、旋盤、マシニング、プレスなど他の金属加工機と並ぶような、金属加工において当たり前の存在にならなければならない。そのため産学連携をはじめ、金属3D造形の普及促進にも熱心だ。欧米の有力メーカーからの問い合わせにもオープンに対応しており、工場見学から現実的な導入のアドバイスまで、他社ではやらないような情報公開も積極的に行っている。

「まだ先が見えない未成熟の分野ですから、目先の利益よりも、技術の普及と成長を優先すべきというのが私の考えです。ただし5年後、本格的に普及したときに、研究開発から専門研究者による検証実験、従業員の教育と関連資格の取得まで、すべてに取り組んできた私たちは、先駆者としての優位性を大いに発揮できるはずです。そのためにも、金属3Dプリンタ事業の手を緩めるつもりはありません」

じつは現在、3DプリンタにはJIS規格もDIN規格も対応しておらず、公的な規格がない状態だ。伊福社長は、規格化に向けて関係機関や大学研究者への働きかけも行っている。より大きなムーブメントとするため、同業者との連携にも意欲的だ。

「メーカーであるソディックさんには、3Dプリンタのユーザー会のような組織をぜひ立ち上げてほしいですね。競合関係にあるとは言え、お互い現場の生の声が聞けるのは貴重です。いずれ海外勢との本格的な競争が起こったとき、国内関連メーカーの連携が構築できていることは大きな強みになるはずです」
このように伊福社長は、航空機や先端医療などの分野で新市場を開拓していく狙いだ。


出典:伊福精密株式会社
金属3Dプリンタによる加工サンプル 『神戸ポートタワー』
伊福元彦 代表取締役社長 代表取締役社長 伊福元彦
伊福精密株式会社
代表者
代表取締役社長 伊福元彦
創業
1970年
住所
〒651-2124 兵庫県神戸市西区伊川谷町潤和字西ノ口750番地6
電話
078-978-6760
生産設備
[ソディック製] 形彫り放電加工機 1台
金属3Dプリンタ 2台
ハイスピードミーリングセンタ 2台
[その他] NC旋盤など
関連会社
・昆山伊福谷精密机械有限公司
  住所:江蘇省昆山市周市鎮金茂路888号
  TEL:86-512-57880129
  FAX:86-512-36830828
・香港伊福精密有限公司
・大翔金属工業株式会社
URL
http://www.ifukuseimitsu.com/(外部サイトへ)

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