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前回は、岩井プレス㈱(山梨県大月市)がソディックの放電加工機とともに精密金型製造技術を追求してきた歩みを紹介した。同社は、近年その技術を活かし自社製品開発にも乗り出している。「この仕事を次の世代がやりたいと思える仕事にしたい」と語る相馬社長に、未来に残る事業づくりを聞いた。
目次
次の世代がやりたいと思える仕事をつくる
「以前の放電加工機の稼働率は3割程度でした」と相馬光成社長は振り返る。同社は金型設計から金型製作、プレス加工までを一貫して手掛けるが、ワイヤ放電加工機を使用するのは主に金型製作工程。そのため工程全体で見ると使用時間は限られていた。
ワイヤ放電加工機は、金型精度を支える中核設備である一方、大きな投資を伴う設備でもある。だからこそ、「機械の空いた時間を活用して、自社製品を作りたい」というのが第一の理由だった。

もう一つの理由が、請負仕事からの脱却だ。精密プレス部品の世界は、製品1個当たりの単価が極めて低い。かつては1億個単位の量産案件も珍しくなかったが、市場環境は大きく変化した。「10銭の部品を1,000万個打ってようやく100万円という世界です。大切な仕事ですが、それだけで会社を残せるとは思わないし、若い人も入ってこないでしょう。次の世代がやりたいと思える仕事にするには、まだ世界にないものを作って、ちゃんと事業化しなきゃいけないんです」(相馬社長)。そうした思いから、自社製品開発への挑戦が始まった。
特許取得も事業化は別物だった
相馬社長が最初に手掛けたのは、平らな金属面から立体が浮かび上がり、再び平面へ戻るオブジェ「造形物駆動装置」。ワイヤ放電加工機による高精度加工を活用した独自機構で、2023年には特許も取得している。構想していたのは、高級ホテルや商業施設での活用だ。訪れた人を驚かせるオブジェとしての需要を見込んでいた。
しかし、技術的な完成度と製品化はまた違う問題があった。「実際ハイエンド層向けの施設からお声がけはいただいていたんですが、いざ販売後を考えると継続したメンテナンスが難しく事業化を断念しました」(相馬社長)
たった15ピースの超難解パズル「ZIREL」
試行錯誤をくりかえし、2020年、自社製品第1弾として発表したのが、15ピースながら「極限の難しさ」をうたった超合金ジグソーパズル「ZIREL(ジレル)」。精密金型で培われた、クリアランスをミクロン単位で調整する技術が、遊びに応用された製品だ。
一見すると、3種類の同じ形のピースが5つずつあるように見えるが、実際には、15個すべてがミクロン単位で異なる形状をしている。しかも鏡面仕上げのため、肉眼ではピース同士の違いどころか表裏の判別も難しい。ピース間のクリアランス(隙間)はわずか0.005mm。正しい場所でなくても収まってしまうようにみえるが、組み合わせを1カ所でも間違えると最後の1ピースが入らない。できそうなのに完成しない“じれったさ”こそが、このパズルの最大の特徴であり、ZIRELの名前の由来になっている。
クラウドファンディングサイトで販売を開始し、約3万円の高価格帯にもかかわらず、購入総額は目標の888%の266.4万円を達成した。この成功により、精密加工技術そのものが商品価値となるという確信をつかんだ。
何もない金属面から文字が現れる「未来印」
パズルの成功を受け、同社が次に着目したのが印鑑。開発を主導した相馬光成社長に対し、販売やマーケティングを担ったのが長男の相馬彰吾マネージャーだ。

精密な文字加工が求められる印鑑は、自社の精密加工技術をより生かせるテーマでもあった。「山梨県は印鑑の一大生産地ですが、近年はデジタル化の進展で印鑑離れも進んでいます。だからこそ、次の世代に印鑑文化が残るような新しい商品を作りたいと思ったんです」(相馬マネージャー) 。こうして誕生したのが、自社製品第2弾の金属製印鑑「未来印」だ。
未来印の最大の特徴は、一見すると何もない平らな金属面から、印影となる文字が現れることだ。文字部分の部品と、文字部分を切り抜いた周辺部品を、わずか0.002mmの隙間で緊密に組み合わせ、本体のダイヤルを回すことで文字が浮かび上がる独自機構を採用している。
その滑らかな動きは、製品化に至らなかったオブジェ「造形駆動装置」の発想が生かされている。精密金型で培ったクリアランス制御技術と独自機構を融合し、オーダーメイドの高付加価値製品として生まれたのが未来印だった。
国内外で支持を集める「未来印」
未来印は2023年に国内のクラウドファンディングで販売を開始。何もない金属面から文字が現れる独自機構と、その背景にある精密加工技術が話題を呼び、「世界で一つのものを持ちたい」と考えるハイクラス層を中心に多くの支援を集めた。同サイトでは、約16万円(購入プランによる)の高価格帯製品ながら484万円超を集め、目標額の1614%を達成した。

未来印は日本国内にとどまらず、海外にも販路を広げている。海外の顧客からは、製品そのものへの評価に加え、「この小さな印鑑に、そこまで時間と手間をかけるのか」という日本文化を体現した製品として評価されているという。台湾や韓国など、印鑑文化が残る地域で人気を博し、現在、未来印の受注の約80%は海外からのものだという。


後継者に、自分と同じ道は求めない
自社製品開発により、事業承継の在り方も一歩先に進んだ。自社製品事業を支えているのは、相馬社長だけではない。長男の相馬マネージャーは、もともとは別業界で営業として働いていたが、開発中だった「ZIREL」を見て、「これを一緒に売っていきたい」と岩井プレスに入社。以来、国内外クラウドファンディングの運営、自社製品サイトの構築、展示会出展などマーケティングを専任している。
相馬社長は、「息子は僕とは違う人間です。僕は技術者だけど、彼は営業。僕と同じことをやる必要はないし、彼にしかできないこともある。だからこれからの僕の仕事は、僕がいなくなっても残るものをしっかり作ることだと思うんです」と言う。
目指すのは、自社の技術やブランドを「資産」として残すこと。知的財産面では、商標・意匠・特許の国内外での登録をすすめ、技術面でも、これまで自ら担ってきた「未来印」の設計や組み立てを、従業員へ移管した。
次世代に向け、技術と事業をつなぐ
新しい事業の柱として確立した自社製品は、受託事業の変動を補う存在へと成長。かつて遊休時間の多かったワイヤ放電加工機はフル稼働に近い状態となり、さらなる設備投資も視野に入れるまでになった。
次なるステップとして、これまでフロアが分かれていた放電加工機・プレス機を、1つのフロアに設置するという工場のレイアウト変更も進行中だ。「主要事業も自社製品も、すべての加工工程を一目でみえるようにしたい」と相馬社長は顔をほころばす。
創業以来、同社は単発プレス加工から精密金型メーカーへと進化してきた。そして今、「ZIREL」や「未来印」を通じて、自社技術を自らのブランドへと変えようとしている。「自分が死んでも残るものを作りたい」。その言葉の先にあるのは、時代が変わり、人が変わり、世の中が変わっても受け継がれる技術と事業である。

岩井プレス株式会社
代表取締役 相馬 光成
所在地 〒409-0622 山梨県大月市七保町下和田1117
連絡先 TEL 0554-21-5000 FAX 0554-21-5001
設立 1971年
資本金 1000万円
社員数 7名
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