インタビュー【ソディック社員の声】車いす陸上競技選手 安川祐里香さん

パラスポーツの「土台」を作る。


ソディック社員 安川祐里香さん
目標は「東京パラリンピック2020」出場

車いすが疾走する。通常の車いすの6~7倍の速さで走る競技用車いすは、まさにスポーツカーのようだ。この車いすを操るのは、株式会社ソディック社員の安川祐里香さん(人事・コンプライアンス統括部 人事管理室)。

19歳で競技と出合い、ソディック入社後も練習を重ねてきた。国際パラリンピック委員会(IPC)公式大会として開催された「東京マラソン2016」で行われた10kmマラソン部門で優勝するなど、国内で注目されるアスリートにまで成長している。その安川さんに日々のトレーニングやソディックとの出会い、「東京パラリンピック2020」への目標など、パラスポーツへの想いを語っていただいた。

安川さんの日常の生活やトレーニングを教えてください。

現在、私はソディックの人事・コンプライアンス統括部 人事管理室に所属しています。そして、車いす陸上競技選手として日々トレーニングを重ねています。中距離も走ることはありますが、トラック競技の100m、400mがメインです。

1週間のうち3日は横浜本社勤務、仕事を終えると陸上競技場に向かい、トレーニングをしています。1週間のうち2日は、午前と午後の二部練習です。朝早く競技場を走り、夕方までみっちりウェイトや体幹トレーニングをしています。土日は大会やパラスポーツ(障害者スポーツ)を知ってもらうイベントに出たりしています。……基本的に、ずっと走ったり、体を動かしていますね(笑)。

アスリートにとって休息も大切だと思うのですが、
これほどトレーニングを積んで大丈夫ですか?

そうですね。レーサー(競技用車いす)は車高が低く、暑い日は反射した日差しが直接当たります。これが、結構体力を消耗します。トラックでの練習は負荷がかかるため、普段より疲労がたまります。休みの日はやはり、回復に努めないと体力が持ちません。クエン酸、酢の物、お肉や炭水化物を摂って回復に努めています。私はスポーツ医科学センターの登録アスリートなので、栄養管理やウェイトトレーニングのメニューを専門スタッフに組んでもらっています。

競技場でのトレーニングに励む日々

安川さんはどのような子供時代を過ごしたのですか?

千葉県の九十九里の近くで生まれました。小さい頃から活発でした。保育園を脱走して家に帰ってしまうんです。母が大好きで、会いたくなって帰ってしまうんです。5歳の頃に事故で第六胸椎と第七胸椎を負傷してしまいました。2ヶ月ほど入院し、リハビリをして歩けるようになりましたが、車いすを必要とする生活となりました。

小学校の4年生の頃、神奈川の学校に転校しました。当時は車いすを使わなくても歩くことができました。新しい環境になっても、たくさんの友達や先生に支えられて楽しく過ごしました。体育の時でも、先生や友達が「車いすだからできない」という考え方ではなく、「これなら、車いすでもできるんじゃない?」とアイデアを持ち寄ってくれるんです。今もそうですが、思い返すといつも周りにいい人たちがいます。自分の世界に引きこもらず、いつも外に向かっているからかもしれません。

車いす競技と出合いはいつ頃ですか?

19歳の頃です。きっかけはスポーツジムに泳ぎに行った時でした。車いすの陸上競技の告知ポスターを見たんです。
「へえ、車いすのレーサーで走るのか……」
そのポスターに写っていた、まるでスポーツカーのような車いすに興味を持ちました。
「私もやってみたい」。そんな気持ちがわき上がったのを覚えています。一枚のポスターとの出合いで、私は競技用車いすに乗るようになったんです。

ジムのスポーツ指導員の中に、パラリンピックでコーチをしている人がいました。すぐにジムでレーサーに乗ることができました。レーサーはアルミニウムでできていて重さは7キロくらい。とても軽く片手で持てるほどです。前方が軽いので最初はひっくり返ったりしましたが、比較的早く乗れましたね。

ジムの近くにスタジアムがあり、そこには1キロの周回コースがあります。レーサーでコースを何周もぐるぐる周り、そのスピード感に取り付かれました。「こんなに速いんだ」。私はその速さに衝撃を受けました。速さが常用の車いすとはまったく違うんです。速さは新鮮で楽しかったけれど、遊び半分。まさか、自分がアスリートになるとは夢にも思いませんでした。

レーサーに出合った翌年にロンドンパラリンピック(2012年)が開催されました。パラスポーツは競技人口が少ないので、競技をやっているとトップアスリートに出会うチャンスが多いんです。アスリートたちは、本当に速いし格好いい。彼らを実際に見ているうちに、「私もこうなりたいな」という意識が芽生えてきました。それで、コーチに本気で競技をやりたいと告げました。それから、ずっと競技を続けています。

競技との出会いがアスリートへの道を開いた

ソディックにはどういう経緯で就職したのですか?

入社は2013年です。横浜の会社説明会で人事課の方から話を聞いてすぐ、「この会社に入りたいな」と思いました。いくつかリストアップしていた会社があったのですが、車いすで働きやすい環境の会社は少なかったんです。ですが、ソディックはバリアフリーが完備されていて、車通勤が可能です。その環境を用意している会社に惹かれました。あとで人事の人に聞いたのですが、「説明会に来た安川は元気でキラキラ光っていた」と言ってもらえました。本当かどうかはわかりませんが、うれしかったですね(笑)。

面接試験の時は、車いす競技の話はしませんでした。当時はまだ競技を始めたばかりでしたから。入社後はフルタイムで働き、土日に大会に出る日々が始まりました。入社して3年ほど経った頃、レースでも結果が出るようになってきました。ですが、同時に限界も感じていました。フルタイムで働いていると練習時間がなかなか取れないんですね。退社後に競技場に行くと他の選手たちとの練習には間に合いません。土日だけの練習ではとてもトップの選手たちとは渡り合えない。ほかの選手と比べると、目に見えて練習量に差がついていました。

正直にお話をすると、他の企業からアスリートとして移籍しないかというオファーもありました。しかし、移籍すると、せっかくのいい環境の会社や、大勢の仲間と別れなくてはなりません。これまで培ってきた人間関係もまたゼロからやり直しです。移籍かパラリンピックを諦めるか。……その選択肢しか思い浮かびませんでした。

だけど、会社にいたい。一番いいのはソディックにアスリートとして支援してもらうことです。そこで、上司に相談をしました。会社としてもアスリートからの相談というのは初めての事例だったそうです。すると、勤務時間や大会に出るための様々なサポートをするという返事をすぐにいただきました。まさか、私の要望が通るとは思っていなかったので、とても驚いたと同時に本当に感謝しました。一般企業でパラリンピックの支援をしてくれる企業は少ないのが現状です。本当にうれしかったです。練習時間、海外の大会への渡航費、交通費などのサポートのほか、応援クラブまで作ってくれました。

様々なサポートをしていただくことで、生活も意識も大きく変わりました。会社にサポートをしてもらうからには一生懸命トレーニングを積み、結果で返さないといけないという自覚を持つようになりました。大勢の方からのサポートを受けているからには、練習も生半可にはできません。

バリアフリーなため車通勤が可能

安川さんの今の目標をお聞かせください。

国際パラリンピック委員会(IPC)公式大会として開催された「東京マラソン2016」に出場した時、10kmマラソン部門で優勝したりと結果が出はじめています。もちろん、競技の先には2020年の東京パラリンピックへの出場という目標があります。しかし、目標は東京パラだけではないので、長い目で見て、パラスポーツの「土台」を作ることが大切だと感じています。東京の次のパラも見越しています。

競技で結果を出すことも大切ですが、それと同時にやらなければいけないことがあります。それはパラスポーツの知名度を上げることです。最近はオリンピック自国開催ということで、パラスポーツの知名度は以前と比べて上がってきました。しかし、他の国と比べるとパラの知名度が低いように思います。

実際はどんな競技なのかということを、皆さんに知ってもらえるように、実際に車いすレースを体験してもらうイベントなどに積極的に参加しています。イベントで初めて競技を知り、実際に競技を始める人も出てきました。将来、そんな中からライバルになる選手が出てきたらうれしいですね。

東京マラソン2016での様子愛車のメンテナンスも欠かさない

現在、安川さんは100m、400mをメインにしていますが、他の競技には興味はありませんか?

トレーニングで長距離を走ります。また、体力アップのためにハーフマラソンにでています。医科学的な見地から、わたしの体格や瞬発力は、100mと400mで良い結果をのばせると評価があります。そして、私自身も競技中に潜在能力を感じることがあります。

一度、車いすバスケに誘われてプレイしたことがあります。ですが、私はどうやら団体競技に向いていないんです。チームで戦うというのは、どうもだめなようです。……だって、保育園の頃から、脱走していたくらいですから(笑)。

私には短距離が向いているんです。100mと400mをメインに、ずっと個人競技をやってみようと思っています。それに、ソディックには応援してくれる仲間がいます。その仲間に応援してもらえるという環境は、何事にも代えがたい財産です。励みにもなりますし、競技を続けるモチベーションにもなっている。やっぱり私の居場所は、ここなんだと思います。

ライター:井上英樹(MONKEYWORKS) カメラマン:藤田修平

安川 祐里香
経歴
車いす陸上競技選手。千葉県出身。
2013年ソディック入社。
2012年から競技を始め、2015年よりソディック
スポンサー選手となる。
主な戦歴
  • 東京マラソン2016 10kmマラソン部門 優勝
  • 2016全国車いすマラソン(ハーフ)女子 優勝
  • 第35回大分国際車いすマラソン大会 3位
  • 名古屋ウィメンズマラソン2016 10Km 3位

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